システムの障害やサービスへの問い合わせなど、日々発生するインシデントへの対応が属人化し、対応の遅延や品質のばらつきに悩んでいませんか。インシデント管理を成功させる鍵は、発生から解決までのプロセスを標準化し、情報を一元管理できる自社に最適なツールを選ぶことです。本記事では、インシデント管理の目的と重要性といった基礎知識から、属人化を防ぐためのツール比較のポイント、さらには国内外で評価の高い最新のおすすめツール10選までを網羅的に解説します。この記事を読めば、自社の課題を解決し、SLA遵守と顧客満足度向上を実現するインシデント管理ツールが必ず見つかります。
インシデント管理とは 目的と重要性を解説
ビジネスのIT依存度が高まる現代において、「インシデント管理」はシステムを安定稼働させ、事業を継続するための重要な活動です。しかし、言葉は知っていても、その正確な定義や目的、なぜ重要なのかを深く理解している方は少ないかもしれません。本章では、インシデント管理の基本を徹底的に解説します。適切な管理体制の構築やツール選定の第一歩として、まずはインシデント管理の全体像を正しく把握しましょう。
インシデント管理の定義
インシデント管理とは、ITサービスの品質低下や中断を引き起こす、あるいはその可能性がある予期せぬ事象(インシデント)が発生した際に、迅速にサービスを正常な状態に復旧させ、ビジネスへの影響を最小限に抑えるための一連のプロセスを指します。
ここでいう「インシデント」には、以下のような具体例が含まれます。
- サーバーがダウンしてWebサイトにアクセスできない
- 社内ネットワークに接続できない
- 業務アプリケーションでエラーが発生し、処理が進まない
- PCの動作が極端に遅くなる
インシデント管理の最大の目的は、根本原因の追求よりも「サービスの迅速な復旧」にあります。例えば、サーバーダウンの原因を時間をかけて調査する前に、まずはサーバーを再起動してサービスを復旧させる、といった応急処置(ワークアラウンド)を優先します。この一連の対応を記録し、関係者間で情報を共有し、解決までを管理することがインシデント管理の役割です。
インシデント管理と問題管理の違い
インシデント管理とよく混同される言葉に「問題管理」があります。両者は密接に関連していますが、その目的とアプローチは明確に異なります。インシデント管理が「応急処置」であるのに対し、問題管理は「根本治療と再発防止」と考えると分かりやすいでしょう。
両者の違いを以下の表にまとめました。
| 項目 | インシデント管理 | 問題管理 |
|---|---|---|
| 目的 | サービスの迅速な復旧、ビジネス影響の最小化 | インシデントの根本原因を特定し、恒久的な解決策を見つけ、再発を防止する |
| 対象 | サービスを中断させている個々の事象 | 複数のインシデントを引き起こしている未知の根本原因(問題) |
| アプローチ | リアクティブ(事後対応)。発生した事象に迅速に対応する。 | プロアクティブ(予防的)かつリアクティブ。インシデントの傾向を分析し、将来の発生を防ぐ。 |
| キーワード | 迅速な復旧、応急処置、ワークアラウンド、影響範囲の特定 | 根本原因分析(RCA)、恒久的な解決、再発防止、既知のエラー |
例えば、「サーバーが頻繁にダウンする」というインシデントが繰り返し発生した場合、インシデント管理ではその都度サーバーを再起動してサービスを復旧させます。一方、問題管理では「なぜ頻繁にダウンするのか?」という根本原因(例:メモリ不足、特定のプログラムのバグなど)を調査し、恒久的な対策(例:メモリ増設、プログラムの修正)を実施して、インシデントの再発を防ぎます。このように、両者は連携してITサービスの安定性を高めていく、車の両輪のような関係です。
なぜインシデント管理が重要なのか
インシデント管理のプロセスを組織的に導入することは、現代のビジネスにおいて極めて重要です。その理由は大きく3つあります。
ビジネス継続性の確保と機会損失の防止
システム障害やサービス停止は、売上の機会損失、従業員の生産性低下、サプライチェーンの停滞など、事業活動に直接的な打撃を与えます。インシデント管理の体制を整備し、迅速な復旧プロセスを確立することは、ダウンタイム(サービス停止時間)を最小限に抑え、事業活動を止めないために不可欠な活動です。これは、事業継続計画(BCP)の観点からも非常に重要と言えます。
SLAの遵守と顧客満足度の向上
多くのITサービスでは、提供者と利用者の間でSLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)が結ばれています。インシデントへの対応が遅れ、SLAで定められた可用性や復旧時間を満たせない場合、ペナルティが発生するだけでなく、顧客からの信頼を大きく損ないます。迅速かつ的確なインシデント管理はSLAを遵守し、安定したサービス提供が顧客との信頼関係を築くための基盤となります。結果として、顧客満足度の向上や解約率の低下につながります。
対応の属人化防止とナレッジの蓄積
インシデント対応を特定の「できる人」に依存している状態は、非常にリスクが高いと言えます。その担当者が不在の際に対応が大幅に遅れたり、退職によってノウハウが失われたりする可能性があるためです。インシデント管理のプロセスを標準化し、対応履歴や解決策をナレッジとして蓄積・共有することで、担当者個人のスキルに依存しない、組織的な対応力を強化できます。これにより、誰が対応しても一定の品質を保つことができ、組織全体のレジリエンス(回復力)が向上します。
インシデント管理ツールを導入する3つのメリット
インシデント管理ツールは、単にインシデントを記録するだけの道具ではありません。導入することで、対応プロセスの抜本的な改善、組織力の強化、そして顧客からの信頼獲得といった、多岐にわたるメリットが期待できます。ここでは、ツール導入がもたらす代表的な3つのメリットを具体的に解説します。
メリット1 対応の迅速化と標準化
インシデント対応において最も重要な要素の一つが「スピード」と「品質」です。インシデント管理ツールは、これら二つの要素を飛躍的に向上させます。
まず、メールやチャット、口頭での報告に頼っていると、情報の見落としや伝達漏れが発生しやすく、担当者への割り当ても遅れがちです。ツールを導入すれば、すべてのインシデントが一元的に集約され、あらかじめ設定したルールに基づいて自動で担当者やチームに割り振られます。これにより、検知から初動対応までの時間を大幅に短縮し、対応漏れのリスクを根本から排除します。
さらに、対応プロセスの「標準化」も大きなメリットです。担当者のスキルや経験によって対応品質にばらつきが出てしまうのは、属人化した組織の典型的な課題です。ツールに搭載されているテンプレートやワークフロー機能を活用することで、誰が対応しても定められた手順に沿った、均一で高品質な対応が可能になります。
| 項目 | ツール導入前(手動管理) | ツール導入後 |
|---|---|---|
| 受付・起票 | メール、電話、口頭などバラバラ。担当者が手動で記録するため、漏れや遅延が発生。 | 受付窓口が一本化され、自動で起票。優先度やカテゴリも自動で設定可能。 |
| 担当者割当 | リーダーが状況を見て手動で割り振り。担当者不在時に対応が停滞。 | ルールに基づき自動で割り当て。エスカレーションも自動化され、対応の停滞を防ぐ。 |
| 対応品質 | 担当者の経験やスキルに依存し、品質にばらつきが生じる。 | テンプレートやチェックリストにより、対応手順が標準化され、品質が安定する。 |
メリット2 業務の属人化防止とナレッジ共有
「あの件はAさんしか分からない」といった状況は、業務停滞のリスクを常に抱えています。インシデント管理ツールは、このような業務の属人化を防ぎ、組織全体の知識レベルを向上させるための強力な基盤となります。
ツールを導入すると、インシデントの発生から解決までのすべてのやり取り、調査内容、対応手順が時系列で記録されます。これにより、担当者個人の頭の中にあったノウハウが「組織の資産」として可視化され、蓄積されていきます。特定の担当者が急に不在になった場合でも、他のメンバーがその記録を参照することで、スムーズに業務を引き継ぐことが可能です。
さらに、蓄積された対応履歴は、貴重なナレッジベースとなります。過去に発生した類似インシデントの対応方法を検索・参照することで、迅速な問題解決が可能になります。これは、新人や経験の浅いメンバーの教育コストを削減し、即戦力化を促進する効果もあります。インシデント対応を通じて得られた知見を組織全体で共有し、継続的な業務改善サイクルを回すことができるのです。
メリット3 SLAの遵守と顧客満足度の向上
特にITサービスを提供する企業にとって、SLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)の遵守は、顧客との信頼関係を維持する上で不可欠です。インシデント管理ツールは、SLAの達成状況を可視化し、管理を容易にします。
多くのツールには、インシデントの優先度に応じて「一次回答までの時間」や「解決までの時間」といった目標値を設定し、その達成度をリアルタイムで監視する機能が備わっています。期限が近づくとアラートで通知されるため、対応の遅延を未然に防ぐことができます。また、レポート機能を使えば、SLAの遵守率や未達成の原因をデータに基づいて分析し、具体的な改善策を立案することが可能になります。
そして、これらのメリットはすべて「顧客満足度の向上」という最終的なゴールにつながります。迅速で的確なインシデント対応は、顧客に安心感を与え、サービスの信頼性を高めます。問題が発生した際の対応こそ、企業の真価が問われる場面です。質の高いインシデント管理体制を構築することは、優れた顧客体験(CX)を提供し、長期的なビジネスの成功に貢献する重要な投資と言えるでしょう。
属人化を防ぐインシデント管理ツールの選び方と比較ポイント
インシデント管理ツールは、ただ導入すれば良いというものではありません。特に、業務の属人化を防ぎ、組織全体の対応力を底上げするためには、自社の状況に合ったツールを慎重に選ぶ必要があります。ここでは、ツールの選定で失敗しないための4つの重要な比較ポイントを詳しく解説します。
自社の課題に合った機能があるか
まず最も重要なのは、自社が抱えるインシデント管理の課題を解決できる機能が備わっているかを確認することです。多機能なツールほど高価になる傾向があるため、必要のない機能にコストをかけるのは避けたいところです。一方で、属人化の解消という目的を達成するためには、特定の機能が不可欠となります。
インシデントの受付からクローズまでの一連のプロセスを管理する基本機能に加えて、「ナレッジの蓄積・共有」と「対応プロセスの標準化」を実現できる機能が搭載されているかどうかが、属人化を防ぐ上で極めて重要です。
| 特に重要な機能 | 属人化防止への貢献 | チェックポイント |
|---|---|---|
| ナレッジベース(FAQ)機能 | 過去のインシデント対応履歴や解決策をデータベースとして蓄積・検索できるようにします。これにより、担当者の経験やスキルに依存せず、誰もが過去の事例を参考に迅速かつ質の高い対応を行えるようになります。 | ・検索機能は使いやすいか(キーワード検索、タグ検索など) ・テンプレート機能で簡単にナレッジを作成できるか ・対応履歴からワンクリックでナレッジ化できるか |
| ワークフロー・自動化機能 | インシデントの分類、優先度付け、担当者の割り当て、エスカレーションといった一連の対応プロセスを自動化します。個人の判断に頼ることなく、ルールに基づいた標準的な対応フローを徹底でき、対応漏れや遅延を防ぎます。 | ・自社の運用ルールに合わせて柔軟にワークフローを設計できるか ・特定の条件(キーワード、緊急度など)で担当者を自動割り当てできるか ・SLA(サービスレベル合意)に基づいた警告通知を自動化できるか |
| レポート・分析機能 | 対応時間、解決率、担当者ごとの対応件数といったKPIを可視化します。データに基づいてボトルネックとなっている業務や特定の担当者に集中している負荷を客観的に把握し、継続的な業務改善につなげることができます。 | ・ダッシュボードは直感的で見やすいか ・必要なデータを抽出してカスタムレポートを作成できるか ・定期的なレポートの自動生成・配信が可能か |
操作が直感的で誰でも使いやすいか
高機能なツールであっても、操作が複雑で一部のITリテラシーが高い担当者しか使いこなせないようでは、情報の入力や共有が滞り、かえって属人化を助長してしまいます。IT部門の担当者だけでなく、新人や他部門のメンバーも含め、関わるすべての人が直感的に使えるUI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)であることは、ツール定着と属人化防止の鍵となります。
ツールの使いやすさを判断するためには、以下の点を確認しましょう。
- ダッシュボードの見やすさ:自分に関係するタスクやインシデントの全体状況が一目で把握できるか。
- チケット起票のしやすさ:入力フォームはシンプルか。テンプレートを使って簡単に入力できるか。
- 情報共有のしやすさ:コメントやファイルの添付、関係者へのメンションといったコミュニケーション機能が使いやすいか。
多くのツールでは無料トライアルやデモが提供されています。契約前に必ず複数名の担当者で実際にツールを操作し、自社のメンバーがストレスなく使えるかどうかを確かめることが重要です。特に、PC操作に不慣れなメンバーがいる場合は、そのメンバーの意見を参考にしましょう。
サポート体制とセキュリティは万全か
ツールは導入して終わりではなく、継続的に活用していくものです。そのため、ベンダーによるサポート体制の充実度と、企業の機密情報を守るためのセキュリティレベルは、ツール選定において非常に重要な要素です。
サポート体制
ツールの操作で不明点が生じた際や、システムにトラブルが発生した際に、迅速かつ的確なサポートを受けられるかどうかを確認しましょう。サポートが不十分だと、問題解決が遅れ、結局「詳しい人に聞く」という属人的な運用に戻ってしまいます。
- サポート対応時間(平日日中のみ、24時間365日など)
- 問い合わせ方法(電話、メール、チャットなど)
- 日本語でのサポートに対応しているか
- 導入時の設定支援や、運用定着に向けたコンサルティングの有無
セキュリティ
インシデント管理ツールは、顧客情報やシステムの構成情報といった機密情報を取り扱う可能性があります。情報漏洩などのセキュリティインシデントを防ぐため、企業のセキュリティポリシーを満たす堅牢なセキュリティ対策が講じられているかを必ず確認してください。
| セキュリティ項目 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| データ保護 | 通信や保存データの暗号化が行われているか。 |
| アクセス制御 | IPアドレス制限、二要素認証など、不正アクセスを防止する機能があるか。 |
| 権限管理 | ユーザーの役割に応じて、閲覧・編集できる情報の範囲を細かく設定できるか。 |
| 第三者認証 | ISMS (ISO/IEC 27001) やSOC2といった、客観的なセキュリティ認証を取得しているか。 |
料金体系とコストパフォーマンス
インシデント管理ツールの料金体系は、主に「ユーザー数に応じた課金」「利用機能に応じたプラン」に大別されます。自社の利用規模や必要な機能を考慮し、最適な料金プランを選ぶことが大切です。
注意すべきは、単に月額料金の安さだけで判断しないことです。安価なプランでは属人化の解消に必要なナレッジベース機能や自動化機能がオプション扱いになっているケースもあります。初期費用やオプション料金も含めた総コストと、ツール導入によって得られる業務効率化や属人化解消による効果(コスト削減効果)を天秤にかけ、コストパフォーマンスを総合的に判断しましょう。
料金プランを比較検討する際は、以下の点を確認してください。
- 課金単位:ユーザー単位か、エージェント(対応者)単位か。
- 最低利用人数・期間:契約に関する縛りはあるか。
- 初期費用:導入時に別途費用が発生するか。
- プランごとの機能差:自社に必要な機能はどのプランに含まれているか。将来的な拡張性も考慮しましょう。
- サポート費用:基本料金に含まれているサポートの範囲はどこまでか。
これらのポイントを踏まえ、複数のツールを比較検討することで、自社の課題解決と属人化防止に真に貢献するインシデント管理ツールを見つけることができるでしょう。
【最新】インシデント管理ツールおすすめ10選を徹底比較
ここからは、数あるインシデント管理ツールの中から、特におすすめの10製品を厳選してご紹介します。各ツールの特徴や料金、どのような企業規模に適しているかを比較し、自社の課題解決に最適なツールを見つけるための参考にしてください。それぞれのツールの強みや機能性を深く理解し、インシデント対応の迅速化と属人化防止を実現しましょう。
【大規模・エンタープライズ向け】高機能なインシデント管理ツール
まずは、豊富な機能を持ち、複雑な組織構造や多数の部門間連携が求められる大規模企業・エンタープライズ向けのツールを2つ紹介します。ITILに準拠した高度なプロセス管理や、強力なカスタマイズ性が特徴です。
ServiceNow
ServiceNowは、ITサービスマネジメント(ITSM)の分野で世界的に高いシェアを誇るプラットフォームです。インシデント管理はもちろん、問題管理、変更管理、構成管理など、ITILに基づいた幅広いプロセスを単一のプラットフォーム上で統合管理できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | ITIL準拠の包括的なITSM機能、強力なワークフロー自動化、豊富な連携機能 |
| 主な機能 | インシデント管理、問題管理、変更管理、構成管理データベース(CMDB)、ナレッジ管理、SLA管理、レポート・ダッシュボード |
| 料金プラン | 要問い合わせ |
| おすすめの企業 | ITILに準拠した厳格なプロセス管理を求める大規模企業、複数のITプロセスを統合管理したい企業 |
AIを活用したインシデントの自動分類や担当者の自動割り当て機能が強力で、対応の初動を大幅に迅速化します。また、ノーコード・ローコードで独自のワークフローを構築できるため、企業の独自プロセスに合わせて柔軟にカスタマイズ可能です。システム全体の可視性が高く、経営層へのレポーティングにも役立つ高度な分析機能も備えています。
Jira Service Management
Jira Service Managementは、アトラシアン社が提供するITサービス管理ツールです。特に開発チームで広く利用されている「Jira Software」との親和性が非常に高く、開発と運用の連携(DevOps)を強化したい企業に最適です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | Jira Softwareとのシームレスな連携、DevOps文化の促進、直感的なUI |
| 主な機能 | インシデント管理、サービスリクエスト管理、変更管理、ナレッジベース、アセット管理、レポート機能 |
| 料金プラン | Freeプランあり、Standardプランはユーザーあたり月額課金 |
| おすすめの企業 | すでにJira Softwareを導入している企業、開発部門とITサポート部門の連携を強化したい企業 |
インシデントが発生した際に、Jira Service Managementのチケットから直接Jira Softwareの開発タスクを起票できるため、バグ修正やシステム改修への流れが非常にスムーズです。情報が一元化されることで、開発チームはインシデントの背景や影響範囲を迅速に把握でき、根本原因の解決に向けた対応を加速させることができます。
【中小企業向け】シンプルで導入しやすいインシデント管理ツール
次に、機能がシンプルで操作が分かりやすく、コストを抑えて導入できる中小企業向けのツールを紹介します。専門的な知識がなくても使い始められる手軽さが魅力です。
Backlog
Backlogは、本来はプロジェクト管理・タスク管理ツールですが、そのシンプルで直感的な操作性から、インシデント管理ツールとしても広く活用されています。特にIT部門だけでなく、様々な部署で利用しやすいのが特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | シンプルで直感的なUI、タスク管理機能の応用、非IT部門でも使いやすい |
| 主な機能 | 課題(タスク)管理、状態管理、担当者設定、コメント機能、ファイル共有、Wiki(ナレッジ共有) |
| 料金プラン | フリープランあり、ユーザー数に応じた月額固定料金プラン |
| おすすめの企業 | 初めてインシデント管理ツールを導入する企業、IT部門以外の問い合わせ管理も一元化したい企業 |
インシデントを「課題」として登録し、担当者や期限、優先度を設定して管理します。誰がどのインシデントに、どのようなステータスで対応しているかが一覧で可視化されるため、対応漏れや重複対応を防ぎ、業務の属人化を解消します。Wiki機能を使えば、対応手順やFAQをナレッジとして蓄積することも可能です。
Redmine
Redmineは、オープンソースのプロジェクト管理ソフトウェアであり、自社サーバーにインストールして無料で利用できます。インシデント管理(チケット管理)システムとして活用されることも多く、コストをかけずに始められるのが最大のメリットです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | オープンソースで無料利用可能、柔軟なカスタマイズ性、豊富なプラグイン |
| 主な機能 | チケット管理、ガントチャート、Wiki、リポジトリ連携、フォーラム |
| 料金プラン | 無料(サーバー費用、保守運用費用は別途必要) |
| おすすめの企業 | コストを最優先に考えたい企業、自社でサーバー構築・運用ができる技術力のある企業 |
チケット(課題)機能を用いてインシデントを管理し、ステータスや担当者を明確にできます。豊富なプラグインを導入することで、自社の運用に合わせて機能を拡張できる高いカスタマイズ性も魅力です。ただし、サーバーの構築やセキュリティ対策、メンテナンスは自社で行う必要があるため、専門知識を持つ担当者の存在が前提となります。
【ITサービス管理特化型】おすすめインシデント管理ツール
ここでは、ITILに準拠し、インシデント管理を含むITサービスマネジメント全般を効率化することに特化したツールを紹介します。ヘルプデスクや情報システム部門の業務品質向上に大きく貢献します。
SHERPA SUITE
SHERPA SUITEは、純国産のITサービスマネジメントツールです。ITILに準拠しており、インシデント管理だけでなく、問題管理や構成管理など13のプロセスを標準機能として提供しています。日本企業の商習慣に合わせたきめ細やかな機能と手厚いサポートが特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 純国産のITIL準拠ツール、手厚い日本語サポート、日本企業向けの機能設計 |
| 主な機能 | インシデント管理、問題管理、構成管理、サービスデスク機能、FAQ管理 |
| 料金プラン | 要問い合わせ |
| おすすめの企業 | 海外製ツールが馴染まない企業、ITIL準拠の運用をスモールスタートしたい企業 |
導入から運用定着まで、経験豊富な国内スタッフによる手厚いサポートを受けられる点が大きな安心材料です。ツールの使い方だけでなく、ITILに基づいた運用プロセスの設計についても相談できるため、ツール導入を機に本格的なITSMに取り組みたい企業に適しています。
Zendesk Suite
Zendesk Suiteは、カスタマーサービスプラットフォームとして世界的に有名ですが、社内のITヘルプデスク向けのインシデント管理ツールとしても非常に強力です。直感的で使いやすいインターフェースと、豊富なチャネル連携が魅力です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 優れたUI/UX、マルチチャネル対応(メール、チャット、電話など)、強力なレポーティング機能 |
| 主な機能 | チケット管理システム、ヘルプセンター(FAQサイト)構築、チャットサポート、AIによる自動応答 |
| 料金プラン | エージェント(担当者)数に応じた月額課金 |
| おすすめの企業 | 従業員からの問い合わせチャネルを多様化したい企業、顧客満足度ならぬ従業員満足度を重視する企業 |
メールやチャット、Webフォームなど、様々なチャネルからの問い合わせを「チケット」として一元管理できます。AI搭載のボットが簡単な問い合わせに自動で回答したり、FAQ記事を提示したりすることで、担当者の負担を軽減し、より複雑なインシデント対応に集中できる環境を構築します。これにより、SLAの遵守と対応品質の向上が期待できます。
【その他】特徴的なインシデント管理ツール
最後に、特定の機能に強みを持つユニークなインシデント管理ツールを4つ紹介します。自社の課題が明確な場合に、非常に効果的な選択肢となり得ます。
PagerDuty
PagerDutyは、インシデント対応の自動化とオンコール管理に特化したツールです。システム監視ツールからのアラートを集約し、適切な担当者へ自動で通知(電話、SMS、プッシュ通知など)することで、重大なインシデントへの初動対応を劇的に早めます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | リアルタイムのインシデント対応、オンコール管理の自動化、豊富な監視ツールとの連携 |
| 主な機能 | アラート集約、オンコールスケジュール管理、エスカレーションポリシー設定、インシデント分析 |
| 料金プラン | ユーザー数に応じた月額課金 |
| おすすめの企業 | 24時間365日のサービス提供が求められるWebサービス事業者、DevOpsを推進している企業 |
「誰が」「いつ」対応すべきかを定義したオンコールスケジュールとエスカレーションポリシーを細かく設定できるのが最大の特徴です。これにより、深夜や休日でも確実に担当者にアラートが届き、対応の遅れによるサービス停止時間を最小限に抑えることができます。
Freshservice
Freshserviceは、直感的なUIとAI機能を特徴とするITSMツールです。インシデント管理、資産管理、プロジェクト管理などを統合し、IT部門の業務をスマートに効率化します。導入や設定が比較的容易なため、迅速に利用を開始したい企業に向いています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | モダンで直感的なUI、AIによる業務効率化、ゲーミフィケーション機能 |
| 主な機能 | インシデント管理、資産管理、ナレッジベース、AIチャットボット、SLA管理 |
| 料金プラン | エージェント数に応じた月額課金 |
| おすすめの企業 | 使いやすさを重視する企業、最新のAI技術を活用してサポート業務を効率化したい企業 |
AIチャットボットが一次対応を自動化し、過去の類似インシデントから解決策を提示するなど、担当者の作業を強力に支援します。また、対応件数などに応じてポイントやバッジを付与するゲーミフィケーション機能があり、チームのモチベーション向上にも繋がります。
LMIS
LMISは、株式会社ユニリタが提供する国産のITSMツールです。Salesforceプラットフォーム上で構築されており、高い信頼性と拡張性を誇ります。ITILに完全準拠した運用を、手厚い日本語サポートのもとで実現できるのが強みです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | Salesforce基盤、ITIL完全準拠、国産ならではの手厚いサポート体制 |
| 主な機能 | インシデント管理、問題管理、変更管理、構成管理(CMDB)、レポート・ダッシュボード |
| 料金プラン | 要問い合わせ |
| おすすめの企業 | すでにSalesforceを導入している企業、コンサルティングを含めた手厚いサポートを求める企業 |
Salesforceの堅牢なセキュリティと柔軟なカスタマイズ性を活かしたインシデント管理が可能です。顧客情報(CRM)とインシデント情報を連携させることで、より質の高いサポートを提供できます。導入コンサルティングや運用定着支援など、充実したサポートサービスも魅力です。
SmartStage
SmartStageは、シンプルな操作性と低コストを両立した国産のサービスデスクツールです。インシデント管理に必要な機能を厳選して搭載しており、IT部門だけでなく総務や人事など、社内のあらゆる問い合わせ窓口で活用できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 特徴 | 低コストで導入可能、シンプルで分かりやすい画面、柔軟なカスタマイズ |
| 主な機能 | インシデント管理(問い合わせ管理)、FAQ管理、通知機能、レポート機能 |
| 料金プラン | ユーザー数に応じた月額課金 |
| おすすめの企業 | コストを抑えて手軽に始めたい中小企業、IT部門以外のバックオフィス業務も効率化したい企業 |
専門知識がなくても直感的に操作できるシンプルな画面設計で、導入後の社内教育コストを抑えることができます。問い合わせ内容に応じて入力フォームを柔軟にカスタマイズできるため、様々な部署の運用にフィットさせることが可能です。Excelやメールでの管理から脱却し、対応状況の可視化とナレッジ共有を実現したい企業に最適なツールです。
インシデント管理ツール導入から定着までの流れ
インシデント管理ツールは、ただ導入するだけではその効果を最大限に発揮することはできません。自社の課題を解決し、組織全体に運用を定着させるためには、計画的な導入プロセスが不可欠です。ここでは、ツール導入を成功に導くための3つのステップを具体的に解説します。
ステップ1 導入目的と課題の明確化
最初のステップは、なぜインシデント管理ツールを導入するのか、その目的を明確にすることです。「他社が導入しているから」「なんとなく業務が効率化しそうだから」といった曖昧な理由で導入を進めると、どのツールが自社に最適か判断できず、導入後に使われないといった事態に陥りがちです。
まずは、現在のインシデント管理におけるプロセスや課題を洗い出し、可視化しましょう。以下の項目について整理することで、自社の状況を客観的に把握できます。
- 現在の管理方法(Excel、スプレッドシート、メール、チャットツールなど)
- インシデントの発生から解決までの平均時間(MTTR)
- 担当者ごとの対応件数や負荷状況
- 対応の属人化が発生している業務領域
- SLA(サービスレベル合意)の達成状況と課題
- 過去の対応履歴の検索性や活用状況
現状分析で見えてきた課題をもとに、「インシデント対応の平均時間を20%短縮する」「問い合わせの一次解決率を15%向上させる」といった具体的な目標(KGI/KPI)を設定します。この段階で情報システム部門、カスタマーサポート部門、開発部門など、関連する部署の担当者間で課題と目的の共通認識を持つことが、プロジェクトをスムーズに進める上で非常に重要です。
ステップ2 ツールの選定とトライアル
導入目的と解決すべき課題が明確になったら、次のステップとしてツールの選定に進みます。ステップ1で定義した要件を基に、複数の候補ツールをリストアップし、比較検討を行いましょう。前章で解説した「選び方と比較ポイント」を参考に、自社の課題解決に直結する機能が備わっているか、将来的な拡張性はあるかなどを多角的に評価します。
候補を2〜3製品に絞り込んだら、必ず無料トライアルやPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施してください。実際にツールを試用することで、カタログスペックだけでは分からない操作性や、実際の業務フローとの適合性を確認できます。
| 評価項目 | 確認内容の例 |
|---|---|
| 操作性・UI | ITに不慣れな担当者でも直感的に操作できるか。ダッシュボードは見やすいか。 |
| 機能の適合性 | 実際のインシデントを登録し、担当者の割り当て、エスカレーション、完了までの一連の流れをシミュレーションできるか。 |
| カスタマイズ性 | 自社の運用に合わせて入力項目やステータスを柔軟に変更できるか。 |
| レポート・分析機能 | 設定したKPIを計測するために必要なデータを集計・可視化できるか。 |
| 連携性 | 現在利用しているチャットツール(Slack, Microsoft Teamsなど)やメールシステムとスムーズに連携できるか。 |
トライアルには、ツールの選定担当者だけでなく、実際に日々インシデント対応を行う現場の担当者にも参加してもらうことが成功の鍵です。現場の視点からのフィードバックを得ることで、導入後の「使われない」というリスクを大幅に低減できます。
ステップ3 運用ルールの策定と社内教育
導入するツールが決定したら、最後に組織へ定着させるための仕組みを構築します。高機能なツールを導入しても、使い方や情報の入力粒度が人によってバラバラでは、データの活用が進まず、新たな属人化を生む原因にもなりかねません。
誰が・いつ・何を・どのように入力するのか、といった運用ルールを明確に定め、関係者全員が同じ基準でツールを利用できるようにすることが重要です。策定すべきルールの例を以下に示します。
| ルール項目 | 定義内容の例 |
|---|---|
| 起票ルール | インシデントの検知者が、いつまでに、どの項目(発生日時、影響範囲、現象など)を必須で入力するかを定義する。 |
| 優先度・緊急度の定義 | 「高」「中」「低」などの各レベルが、ビジネスにどのような影響を与える状態かを具体的に定義する。 |
| 担当者のアサイン | インシデントのカテゴリや内容に応じて、初期対応を行う担当者やチームを自動で割り振るルールを定める。 |
| エスカレーションフロー | 一次担当者で解決できない場合に、どのタイミングで、誰(二次担当者、管理者など)に引き継ぐかを定義する。 |
| ステータス管理 | 「新規」「対応中」「解決済み」「クローズ」など、各ステータスの定義と、更新するタイミングを明確にする。 |
| ナレッジ化のルール | 対応完了後、どのような情報をナレッジとして登録するか(原因、恒久対策、手順など)の基準を定める。 |
ルールを策定したら、全利用者を対象とした説明会やトレーニングを実施し、ツールの操作方法と運用ルールを周知徹底します。また、いつでも参照できるマニュアルやFAQを用意しておくことも有効です。
いきなり全社で展開するのではなく、まずは特定のチームや部門でスモールスタートし、運用しながら課題を洗い出してルールを改善していくアプローチをおすすめします。定期的に利用状況やKPIの達成度をレビューし、PDCAサイクルを回しながら改善を続けることで、インシデント管理ツールは形骸化することなく組織に定着し、継続的な業務改善とサービス品質の向上に貢献するでしょう。
まとめ
本記事では、インシデント管理の定義と重要性、ツール導入によるメリット、そして属人化を防ぐためのツールの選び方を解説し、具体的なおすすめツール10選をご紹介しました。インシデント管理は、システムトラブルなどの影響を最小限に抑え、安定したサービス提供を維持するために極めて重要です。
優れたインシデント管理ツールは、対応の迅速化と標準化を実現し、担当者ごとの対応のばらつきや業務の属人化を防ぎます。これにより、組織全体のナレッジが蓄積され、結果としてSLAの遵守や顧客満足度の向上に繋がります。ツール選定で失敗しないためには、自社の規模や課題に合った機能、誰でも直感的に使える操作性、そして万全なサポート体制を見極めることが成功の鍵です。
この記事で紹介した比較ポイントやおすすめツールを参考に、まずは無料トライアルなどを活用して、自社に最適なツールを探してみてはいかがでしょうか。適切なツールを導入し、インシデント管理体制を強化することで、事業の継続性と競争力を高めていきましょう。
